Life

ごちそうの話

子どもの頃、マックのハンバーガーはごちそうだった。

離島に住んでて、島にはマックなんてなかったから。
電車もない、コンビニもない。
テレビでみるファストフードのCMは遠い国の出来事のようだった。

小学校に上がる前、おばあちゃんと二人きりで鹿児島本土へ行ったことがある。
両親は農業が忙しかったから、おばあちゃんが連れて行ってくれた。
フェリーに乗って、何時間も海の上を走って、ああ、都会はとても遠いんだなぁと思った。

港に着いて、そこからバスで天文館へ。
マックに入り、チーズバーガーとコーヒーシェイクを頼んだのを覚えてる。
コーヒーシェイクにしたのは、おばあちゃんがコーヒーが好きだったからだ。
でも飲んでくれなかったと思う。
貴方が食べたくて入ったんだから、貴方が全部食べなさいと。

初めて食べたハンバーガーの味は、もう覚えていない。
けど、おばあちゃんと二人で、ごちそうを食べに行ったのは覚えてる。

今は時々、子どもと二人でマックにいっている。
プチパンケーキを夢中で食べる我が子には、どう映っているのだろう。

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実家では、米を作っている。
父は会社員をしながら、農協におろせるだけの米や芋、サトウキビをつくっている。

3時に起き、6時まで畑仕事して、7時には会社に行き、17時には帰ってきてまた畑にいき、19時には夕飯を食べ、21時には寝る。

正直、バカだと思うけど、農業が好きで、農業機械が好きでやっているので、尊敬はしている。

おかげで食べ物については、どうやって生まれ、育てられ、食卓に並ぶのかちゃんと知っている。
その大変さも、そうやって稼ぐお金のありがたさも学んだ。
休日や長期休暇期間は畑仕事を手伝うことが多かった。

こうして育て収穫したものを売ることでお金を得る。
自分が何かを作ってお金を稼ぎたい、という根本はここにある気がしている。

牛も飼っていた。
鹿児島産黒毛和牛ってやつ。

産まれた子牛に名前を付けるのが私の仕事だった。

競り場に連れて行かれる子牛を何頭もみた。
連れて行かれる子牛をみて、親牛は泣く。
鳴くのではなく、泣く。
涙を流して。
でも悲しいからと、牛舎で暴れて追いかけることはしない。
自分たちが何者か、分かってるんだと思う。

高く売れた日はお祝いだった。
売れたらその肉を食べると思われていそうだけど、牛とお金を引き換えるわけだから、我々の手元に肉はない。
それに、私はあんまり牛肉は好きじゃない。
出されたらきっちり完食するけれど。

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子どもが、小学生くらいになったら、島に送り込んで農業体験をさせたいなぁと思っている。
島の米の収穫期は夏だから、夏休みとかに。
そして、田んぼのそばの川の冷たさを知って欲しい。
牛の世話もしてみてほしい。
彼らの毛並みの良さと人の顔を覚えたり鍵を開けたりする賢さを知ってほしい。

食べること、作ること、育てることの大変さと、有意義さと、大切さを知ってほしい。

気に入らないメニュー(特に野菜)を食べてくれなくなってきた子どもを見ながら、ちょっと先の未来に、そんな想いを馳せるのでした。

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人生は、ごちそうだ。

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