「この本は家に置いておきたくない」
同じようなホラー好きの友人Cがそう言っていたのもあり、読んでみることにしたんです。
先に竹内結子さん主演の映画『残穢(ざんえ)』を観ていたのですが…
『残穢(ざんえ)』は小野不由美さんが書いたドキュメンタリーホラー小説。
映画化もされて、友人Cが「本当に怖い」と言っていたから、映画が公開された時に観に行っています。
しかしその時の感想は以下のとおり。
そういや、残穢観てきたんですが、なるほどなーという感想。怖いといえば、怖いけど、そこまでとは感じなかったかなー。
多分、途中で佐々木蔵之介でてきたせいだと思う( ˘ω˘)
あの人出てくると途端に胡散臭くなる(失礼
原作読みたいなーってなりました— Mei Koutsuki (@mei331) 2016年2月22日
残念ながらそこまでピンとこなかったんですね。
ホラーな映画はわりと観ていたほうなのもあり、よくある話だな、感がしたのかも。あと佐々木蔵之介さんのせいかなw
その時はそれで終わったのですが、ここ最近になって「夏だし、怖い話が読みたいな」とちょうど思っていた時、Twitterで「#夏の残穢限界読書会」というハッシュタグが話題になっていて。
ほかにも、本屋さんが『一人暮らしの人にオススメ』というコメント付きで『残穢(ざんえ)』を紹介するなど、ちょっとしたブームに乗っかりつつ、同じホラー好き友人を「もう読みたくない」と嫌悪させた文章への興味もわいたので、購入することにしました。
小説『残穢』のカンタンなストーリー
ホラー小説などの執筆を生業としている『私』のもとへ、自身の怖い体験談として久保さん(仮名)から手紙が届いた。
「一人暮らしの部屋で変な音がする」
和室に背を向けていると、時折その畳を、サッ…、サッ…、と撫でるような、掃いているような音であるらしい。
その手紙を受け取った『私』は、どこかで読んだ気がすると思い、過去に読者から届いた手紙を漁る。
するとやはり、同じような体験をした人の手紙が出てきた。部屋番号こそ違うものの、そこは同じ岡谷マンション(仮名)だったのだ。
ところが、不動産会社に問い合わせてみると、岡谷マンションでは事件や事故、自殺などが起きたことは過去にないらしい。
そこで久保さんが地元の人に話を聞いてみたところ、岡谷マンションには不思議と人が居つかない部屋があるというーー。
こんな感じで、最初は久保さんの、よく聞くような体験談から端を発します。
そして、調べていくうちに、岡谷マンションではなく、マンションができる前のこの土地に何かがあったのではないかと調べていくお話です。
ドキュメンタリー・ホラーと言われるように、お話は淡々と進んでいきます。
核心に近づいていくまでは少しまどろっこしくは感じますが、すごくリアルだなと感じました。
実際に調べていたら、きっとそんな感じだろう、と。
主人公である『私』の語り口で話が進むのですが、映画版を先に観ていたせいか、脳内ではずっと映画版の主人公を務めた竹内結子さんが喋っていました。
淡々として合理的、とてつもなく現実主義な『私』のキャラクターと、竹内さんのキャスティングはすごくハマっていたと思います。
ここからはネタバレ注意!小説『残穢』の怖さについて
では、映画も小説もネタバレしつつの感想を。
小説版の前半は岡谷マンションとすぐ近くにある岡谷団地を中心に、過去の出来事や転居した人のその後をひたすら調べていきます。
その調べている最中、久保さんは和室で帯が畳をサッ…と撫でて消えるのを見てしまい、音の主は首を吊った女性ではないかと検討をつけ、自殺者がいなかったかなどを中心に調査を開始。
そうして古い地図や新聞、古くから住んでいる人への聞き込みを進めるうち、少しずつその土地で起きた様々な『奇異』が明らかになってきます。
やたらと悪戯電話がかかってきたとか、赤ん坊の泣き声を気にする人だとか、床下からブツブツと恐ろしい言葉を囁いてくるものがいるだとか。
さらに家をゴミ屋敷にしていた独居老人が自室で病死していたことや、精神を病んだ息子が母親に暴力を振るっているという家があり、挙句に母親が死んでしまった事件などもでてくるのです。
たとえ平和な土地でも、やはり埃は叩けばでてくる、という感じなんでしょうね。
けれども、久保さんが自室で聞いた音と関わりのありそうな情報はなく、すべてバラバラの因果による出来事のようです。
ここまではなんだか暖簾に腕押しのようで、平坦な印象なんですが、ここからゾクゾクするんです。
岡谷マンションが建つよりもずっと昔、過去にその土地で首を吊って自殺した人がいた、という情報が入ってきます。
娘の婚礼が終わったその夜、高野夫人は和服姿のままなぜか首を吊ってしまった。
久保さんが聞いたのは、ほどけた帯がサッ…、サッ…、と規則的に畳を撫でている音だったようです。
なぜ高野夫人は自殺してしまったのでしょうか。
当時の高野夫人を知る人曰く、その頃の夫人は、いないはずの「赤ん坊の泣き声がする」「壁からたくさんの赤ん坊が湧いて出る」と言って、少し可笑しくなっていたそうです。
最初の頃に調べて、関わりのなさそうだった点と点が繋がった瞬間です。ここは本当にゾクッとしました。
さらに古い資料を調べていくと、どんどん点と点が繋がっていきます。
そこがこの『残穢』の恐ろしい部分だと思います。
災いは小さくなりながら、けれども確実に、ゆっくりと伝播している。
その後どんどん繋がった先をたぐっていくと、九州最恐の怪談に繋がります。
聞いても伝えても祟る、と言われるほどに恐ろしい、根幹となった家のことを調べて『残穢』としての物語はそこで幕をおろします。
こうしてみると、叫び声をあげるような大きな盛り上がりはありません。
終始淡々と、その土地の歴史を丁寧に紐解いていく、ホラーでありつつミステリーのような印象をうけるお話です。
しかし、私たちが普段の生活では気にしたこともない、土地に残っている穢れは、まるでウイルスのように発病したりしなかったりしつつも、そこかしこに存在していることを詳らかにされた気分になります。
例えるなら、長年掃除していなかった洗濯槽の汚れを見せられたような感じですかね。
そして、すごく怪談ってこういうことだよな、という納得もしました。
文庫本なので本文の後に解説があるんですが、そこで触れられているとおり、過去に一世を風靡した『リング』や『呪怨』も、結局は『残穢』と同じなんでしょうね。
なんだか気味が悪いな、という感覚がするときは、その残穢が自分の腕を撫でている時だと思います。
友人が「この本は家に置いておきたくない」と言った理由もなんとなくわかります。
本そのもの、物語そのものが、奇異の残穢のように感じるからでしょう。ドキュメンタリーなので、よりリアルですし。
ずうっと開かずに本棚に置いていたら、表紙と中表紙の間がいつのまにか赤黒い何かでべっとり塞がってしまっていそうだな、なんて思ってしまいました。
蛇足と思いつつ映画版を観返してみた
原作も読んだし、記憶もおぼろげなので改めて映画版を観返してみようと思い立ち、改めて観てみました。
(ちょうどNETFELIXで配信されてました)
忙しい人のための『残穢』なんだな、という感想になりました。
久保さんの設定なども少々違いますし、なにより展開がすごく早いんですよね。
原作ではかなり時間をかけて調べたりしているので、サクサク話が進むなぁと。
ただ、原作よりは地図などが出てくるのもあってすごくわかりやすいです。
端折られているものもありますが、要所要所はしっかり押さえているので、話を振り返るのにはいいかもしれません。
また、冒頭から九州の家の話が出てくるのですが、これは原作では後半に登場する話です。
しかし、映画で冒頭に持ってきたのは多分「辿ってみれば根は同じ」という命題を印象深くするためかな、と。
そして最後はやっぱり、残業してた編集部の人が一番かわいそう。
ちょこちょこ登場しただけで、怪異について調べたりなんてしてなかったのに…。
でも意外と現実でも、残穢はそういう風に障るのかもしれませんね。
エンディングの演出はなるほどな、という感じで好きです。
『残穢』ってどんな話だったっけ?と振り返るのにはいいかもしれません。
総括
ホラー小説をちゃんと読むのは久々でしたが(ネットで実話怪談のまとめなどは読んでましたけど)、いいホラーを読んだな、という感想につきます。
驚かしたり、派手に恐ろしい描写をするわけでなく、淡々と、真実を探すように過去を紐解いていくというのは、ミステリー小説のようでとても面白かったです。
『私』がホラー作家だからこその知識でもって、これはどういうものに由来するのだろう?と、感情的になることなく分析するのもいいです。
また、難しい言葉が出てくるので、仏教方面に少しだけ明るくなったような気にもなります。
著者の小野不由美さんは、この『残穢』の前後に『鬼談百景』という本も出されているようなので、そちらも今度読んでみようと思います。